美浜町三尾地区に昨年夏オープンした「すてぶすとん アメリカ村食堂」「カナダミュージアム」、新年早々にもオープン予定の「ゲストハウス 遊心庵」を運営するNPO法人日ノ岬・アメリカ村の一員として、過疎高齢化が進む同地区の維持発展に奔走している。

 大江さんは和歌山市出身だが、幼少期の長期休暇には祖父母のいる美浜町をよく訪れ、「大人になったらこの場所で何かをやりたい」と感じるほど愛着を持っていたという。

 大人になりアパレル関連のサラリーマンとして働いてきたが、友ヶ島の観光旅館で働くことを決意。雇われの身ではあったが店長として実質的に経営にまで携わってきた。

 その後は和歌山市で「Britishcafe THE SPACE」を経営。また、手軽に楽しめるウォータースポーツ「SUP(サップ)」のインストラクターも努めるなど多方面で活躍する傍ら、祖父母の墓参りで変わらず訪れていた美浜町をよくしたいという思いが消えず、行動することを決めた。

 「自然が豊かで歴史ある町並み、魅力のある場所なのに、高齢化が著しく空き家がどんどん増えていて、このままでは集落が廃村になってしまう。大人になり、祖父母との思い出があり大好きなこの場所の現状を知るうちに居ても立ってもいられなくなり、現状が変わらないならば自分で何かアクションを起こすしかないと思いました」。

 思いを形にするべくビジネスプランを立て、和歌山産業振興財団が実施するビジネスプランコンテストに応募し入賞。ちょうどそのころ、町も過疎高齢化の解消などに動き始めており、両者の目的とタイミングが一致。国が提唱する地方創生の波にも乗ったビッグプロジェクトが始まった。


現NPO法人の前身である「日ノ岬・アメリカ村再生協議会」の一員として、町や国からの支援を受けながら自らの思いを実現していくチャンスには恵まれたものの、元いた住民にとっては突然降って湧いた官主導の他人事という雰囲気もあり、約1億8000万円もの交付金を使うプロジェクトが進むにつれ、メンバーは減っていったという。

 やがて協議会の主力メンバーになっていった大江さん。主に食堂のプロデュースを手がけたが、自らの経験や人脈を生かしてプロジェクト全般の立ち上げにも関わった。「この事業に携わるようになったことで三尾地区をより深く知ることができました。明治時代からのカナダとの交流や、漆喰瓦が特徴的な歴史ある町並みは他所から、また客観的に見ても魅力的で、幸運にも取り残された町とも言えます。新たに何かを作るのではなく、今あるものを活用して、選ばれる、足を運んでもらえる町にしていければ」。

 大江さんたちが目指す三尾地区の将来像は、今回整備した3施設を拠点に、町全体を宿や体験施設に見立てて日常生活のなかで観光客をもてなす「まちやど」の仕組みを取り入れていくもの。すでに大江さんは同地区の古民家を購入し、個人的にもゲストハウスなどをオープンさせるほか、友人を地区に招き、食堂の管理や英会話教室なども行っている。

 「今回の国や町からのサポートを受けてできた事業はスタート地点。ぼくたちがここで楽しく日常生活を送ることで魅力を感じてもらい、観光客はもちろん、この地で暮らしてみたいと思える町づくりをしていきたい。たくさんある空き家などをともに維持発展させてくれる『家守』を増やしていければ」。また大江さんは、今もカナダの人々が昔縁のあった三尾地区を訪れていることを挙げ、海外からの観光客も招き、受け入れる町づくりを目指している。

 さまざまな意見を持つ住民や仲間の合意を得ながらの事業は、多くの困難に満ちているはず。にも関わらず大江さんは「できること、やりたいことがいっぱい。もっと多くの仲間を受け入れて、このステキな町を再興させる喜びを共有していきたい」とあくまで前向き。屈託なく笑うその姿は「いつかこの場所で」と夢見ていた少年時代に戻ったよう。惜しみない愛情とともに美浜町の魅力を大江さんに伝えた亡き祖父母も、彼らの夢をサポートしてくれるはずだ。