古座川町の名勝・滝の拝(たきのはい)を間近に望む、紀伊山地の奥深い山々に囲まれた小川地区の古民家で、2018年11月に「Lacomaゲストハウス」をオープン。すでに「田舎暮らし」「起業」の夢を叶えた27歳が、この深遠な熊野の地で見据える未来とは。

「Lacoma(ラコマ)」とは「人と人の人生を繋ぐ、母のような場所に」という思いが込められた造語で、管理人と寝食を共にし「人生の一部分を共有する」ゲストハウスは、高柳さんの思いを表現する絶好の場所だった。

大阪出身の高柳さんは、和歌山大学を卒業後、大手保険会社に就職。安定した暮らしを手に入れた一方で、漠然と持っていた田舎暮らしへの憧れを胸にしまい、ポジティブとはいえない仕事や人間関係を抱えながら営業職に従事していたが、ある営業先で知り合った人に「自分がやりたいことをするべき」と勧められ、古座川町を紹介されたという。
仕事の休みを利用し、旅行気分で訪れた古座川町では、都会からの移住者や、町の魅力を発信しようと奮闘する若者の姿を目の当たりに。「金ない、縁ない、老後でないと無理」と諦めかけていた背中を押され、初めて訪れた日から半年後の2017年春に古座川町への移住を実現させた。
移住後は、農薬・化学肥料を使わない野菜や米などの栽培、加工品の販売とともに、若者の古座川町への移住を促進する農業法人「㈱あがらと」で農業に携わりながら、「より人との密接なふれ合いを提供できる場所をつくりたい」という思いを形にするため、過疎高齢化が進み9人しか住人がいないという小川地区の空き家を借り、ゲストハウスをオープンさせた。
さまざまな選択肢があるなかで古座川町を選んだ理由を「人との繋がり」と答える高柳さんのゲストハウスは、宿泊予約サイトなどは使わず、SNSやホームページ、口コミを通じ、周辺の観光や熊野古道を目的に訪れるお客もいるが、最も多いのは高柳さんが創り出す空間とともに彼女自身に興味を持つ若者で、彼らとともに過ごす時間を大切にしているという。
現在はゲストハウスを拠点に、イベントの開催や、町の自然素材を使った草木染めのアクセサリー作りなども行っているが、山奥に暮らしながらも視野は広く、また未来への展望も大きく広がっている。

ゲストハウスでの出会いを生かし、地区に多くある空き家を活用し、古座川町への移住者らを受け入れるシェアハウス事業を計画。またその先には、小川地区にさまざまな仕事を持つ移住者を受け入れて、移住者と地域住民が共生するコミュニティを作る未来を描いている。
「古座川に来て、同じ価値観を持つ移住者や、温かく迎え入れてくれた地域の方々、またゲストハウスを通じたさまざまな出会いがあるから、今の私がいると実感します。今後もこの地を拠点に、できること、やりたいことはたくさんありますが、ペースや価値観を共有しながら、地域の方々と協働して、小川地区や古座川町を盛り立てていきたい」。
「人里を離れ、何もない場所」などと揶揄されることも多い、いわゆる田舎の集落で、高柳さんはにこやかな笑顔で日々を暮らし、力強く未来を描きながら生きている。取材中、高柳さんは、間近にある絶景の滝の拝や、360度を熊野の山々に囲まれた大自然の魅力について深くは語らなかった。人との密接な関りがあれば、現在や未来に希望を持って生きられると、高柳さんの生き方は示しているようだった。
「Lacomaゲストハウス」のホームページはhttps://lacoma.co.jp/

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