生石高原のふもと、標高約450㍍の高地、有田川町で100年以上続くみかん農家を継承し、見習いとして祖父の技術を学びながら、インターネットを活用した販売や情報発信で注目を集めている。

農園からは遠く海まで見渡せる絶景

 白樫さんは有田川町で生まれ、県立和歌山商業高校を卒業後、大阪経済大学に進学。経営学部で経営について学び、東京の大手広告代理店への就職が内定していたが、祖父が続けるみかん農園を守り継承したいという思いが捨てられず辞退。卒業を間近に控えた2019年9月に母方の実家である同園を継いだ。
多い時で年間40㌧を収穫する同園のみかんは、高地ならではの酸味とともに、近年の温暖化の影響で糖度が高く豊かな甘みとのバランスの良さが特徴。祖父の行修さんを中心に家族で受け継いできた伝統と、ここでしか出せない味を守っていくことが何よりの使命だと白樫さんは言う。
一方で、大学時代に学んだオンラインマーケティングの知識を生かし、インターネット通販を開始。「メルカリストア」や「ベイスストア」といった固定費がかからず利用者が多いネット通販ストアのほか、「インスタグラム」や「LINE」「ツイッター」などのSNSを活用した情報発信や潜在・顕在顧客との交流を図っている。

インターネットを活用して農園をPR


白樫さんの情報発信により、農園がテレビや多くのメディアに掲載されるなど注目を集め、インターネット上で大きな影響力を持つ「インフルエンサー」が農園を訪れたり、みかんをPRをしてくれるなど、早くもこれまでにはなかった成果を挙げているほか、県外や海外からも農園での仕事を体験したいという人も訪れている。
「祖父をはじめ家族で育んできた有田みかんは世界で通用すると信じています。その魅力を自分が学んできたITや経営の知識を生かして広めていきたい。また農業や田舎暮らしの良さを若者に伝えるために、動画や記事などの制作にも取り組んでいきたい」。
家族の思いを受け継ぐために都会で待っていたであろう暮らしやキャリアを捨ててこの地を選んだ白樫さん。すでに多くの新たな可能性を農園にもたらしているが、世紀を超えて受け継がれてきた伝統は、しっかりと彼の中に育っている。


「最も大切なのは、みかん農家として持続していくこと。これからも祖父や家族から多くのものを学び、『有田みかん』ブランドを築いてくれた農協との関係も続けながら、自分らしい方法で発展させ、農業の魅力を広く伝えていきたい」。
誠実に取材に応じ、また温かい笑顔で迎えてくれた家族。山深い絶景の地で脈々と受け継がれてきた技術と誇りは今、白樫さんに継承されつつあり、今年も豊かに実ったみかんに表れている。

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