伝統的な「手火山製法」の鰹節をベトナムの工場で製造し、国内に卸販売。廃校になったすさみ町の見老津小学校を活用した「カツオの学校」で、さまざまな新商品を開発しており、今後は工場見学や削り体験なども予定している。
同社では、平成5年にカツオ漁が盛んなベトナムの港近くに工場を設立。200人に及ぶ現地従業員が24時間体制で水揚げされたカツオを生のまま、江戸時代から日本で行われてきた手火山製法で鰹節に加工する。
手火山製法とは、原料となる生カツオを蒸籠に並べ、かまどの直火で燻しと乾燥の行程を何度も繰り返して風味や香りを熟成させていくもので、カツオの旨味が凝縮された最高品質の鰹節ができる一方で、膨大な手間とコストを要するために、近年ではこの製法で製造する会社は皆無だといい、近い将来消えゆく伝統技術として危惧されている。
先代の後を継ぎ平成27年に代表取締役に就任した花尻貴之さん(38)は、20歳のころからベトナムに渡り、現地で製法の指導や工場の管理などを行ってきた。年間9~10カ月も獲れる豊富な資源など適した環境はあったが、気候風土の違いなどもあり何度も失敗を繰り返した末に、ベトナムで手火山製法での鰹節の製造を確立させた。
年に3000㌧ものカツオを使用し、600㌧の鰹節を製造。大半は国内向けの卸販売に充てられるが、2018年には別会社「㈱匠創海」を設立。ベトナムで製造された鰹節を、すさみ町の廃校を活用した「カツオの学校」で加工し、さまざまな商品開発を行っている。
2019年3月から稼働している「カツオの学校」では、ベトナムで製造された手火山製法の鰹節を輸入し、「手火山製法 花かつを」や「手火山製法 粉かつを」などのベーシックな鰹節加工品のほか、粗く削った鰹節が入った容器の中に醤油やポン酢など好みの調味料を注いでカツオの風味が効いたオリジナルの調味料が楽しめる「手火山製法 かつお節 私んだしっ」など個性的な商品を開発。また、カツオの粉をふんだんに使用して開発した「カツオラーメン」などを各地のイベントに出品するなどしている。
日本でも生のカツオから製造された鰹節を目にする機会はほとんどなくなったが花尻さんは、自社の商品を食べた人の反応や、海外への広がりにも手応えを感じているという。「手間ひまをかけてカツオの旨味を凝縮した鰹節は、年配の方はもちろん、鰹節に親しむ機会が少なくなった子どもたちにも人気があります。また、和食と奥深い出汁の魅力は海外で絶大な人気があり、今は国内への卸販売がメインですが、さまざまな加工品を開発していき、鰹節の魅力を広く世界に伝えていきたい」。
日本で消えつつあった伝統の製法を海外で復元し、カツオの聖地・すさみ町へ持ち帰り新たな可能性を模索する同社。昔は多くいたが、同産業の衰退とともにいなくなってしまった鰹節に携わる雇用の拡大にも取り組もうとしている。「小学校を活用した体験事業」「とことんカツオにこだわった、ラーメン・うどん・そば店の出店」「子どもにも親しまれる鰹節を使ったお菓子の開発」など、花尻さんのアイデアと夢は聖地から世界へ広がっていく。