有田市沖の無人島・地ノ島を開拓し、キャンプやイベント、企業の社員研修などの自然体験として利用する「無人島プロジェクト」を展開する㈱ジョブライブ(本社・東京都千代田区)のメンバーとして、2017年秋から同市へ移住。無人島開拓生活を続けている。
地ノ島は、初島漁港から漁船を利用して片道約7分で行ける無人島。県内屈指の透明度を誇る約500㍍のビーチがあり、夏には海水浴場として親しまれてきたが、通年してより多くの人に訪れてほしいという地元の要請を受け、日本唯一の無人島専門の旅行会社である同社と有田市、観光協会や島の地主らが協働で「有田市西海岸エリア五つ星プロジェクト地ノ島協議会」を設立。「無人島プロジェクト」が始まった。

近年のアウトドアブームや人気テレビ番組でも取り上げられるなど、無人島観光はリアルな自然を体験できる新しい観光ツールとして急速に人気を拡大。家族や団体でのキャンプだけでなく、野外シネマや音楽ライブなどさまざまなイベントでの利用や企業研修など、利用者の幅も広がっている。
無人島専門の旅行会社として、急速に高まるニーズと全国各地の無人島をつないできた同社だが、自ら無人島を開拓して集客までを行うプロジェクトは今回が初めての試みだという。
田中さんらメンバーは、生い茂る森を切り開いて土地を開拓したり、小屋を建てたりと、まさにテレビ番組の無人島生活を思わせるような作業を仕事としている。「無限にある」という仕事の圧倒的に不足している人出も、体験事業「無人島開拓サロン」として収益をあげながらカバーしているという。
東京出身の田中さんは、高校卒業後すぐに起業し、不動産や飲食などさまざまな事業を経営してきた。「これまで経営者として生きてきたので、30代を迎えるころには自分が経営者として向いているのかもわからなくなっていました。そんなときに知り合いが無人島事業を展開していくという話に興味を持ち、一度は会社の一員として仕事をしてみようと思い、無人島プロジェクトに参加しました」と、「脱サラ」ならぬ「脱社長」という普通とは逆の選択をし、無人島開拓のため有田市へ移住した。

田中さんの日常は、道なき森を切り開いて土地を作ったり、小屋などを建築したりと、島にいる間はひたすら力仕事。沿岸の町でメンバーと共同生活をし、帰った後も事務仕事や、前例のない「無人島インストラクター」として、キャンプやダイビング、サバイバル、船舶、建築、さらには自然全般の知識や資格を得るために勉強に励む毎日。「無人島という隔離された場所での管理者には、すべてに長けたスーパーマンのような存在が求められるので、応えられるようにあらゆる知識と技術を身に付けないといけないので、人材を育てるのも至難の業です」。
さらに、島に入れる期間は4~10月までで、オフシーズンにはみかんの収穫作業を手伝うなどもしつつ、貯金を切り崩しながらの暮らしだという。それでも2018年のゴールデンウイークの来島者は25人だったものが、2019年のゴールデンウイークは約1000人が訪れたといい、夏にはさらに多くの人が訪れたという。
「開拓作業は果てしなく続き、課題も山積みですが、日本では他にない未開拓の仕事で、さばききれないほどの需要があることを感じています。事業としての魅力とともに、みなさんが持っている無人島に対するワクワク感を共有しながら、いっしょに体験できることは何よりのやりがい」。30代は無人島とともに過ごし、無人島観光の国内の先駆者になりたいと展望している。
また、企業研修や学校の合宿などで無人島に来ると、会社や学校では仕事や勉強の出来、不出来や立場などの固定観念のなかにいる人達が、全員が同じ、何もできないゼロから同じ時間を過ごすことになるといい、普段の環境では決して知り得なかった特性や長所を見出すことにもつながるとして、先進的な大手企業や有名校ほど無人島研修を積極的に導入しているという。
全国・海外からの関心が高まりつつある和歌山で、これまで未開拓だった無人島を新たな観光資源として活用しようとする彼らの試みは、多くの無人島と豊かな自然を有する和歌山にとって、大いに参考になるものだ。

大工仕事もこなす田中さん

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